日産追浜工場閉鎖が突きつける「地方で働く現実」――60歳システム担当者の胸に刺さった本音

桜田 泰憲

いつものように出勤前のニュースチェックをしていた朝。日産追浜工場閉鎖のニュースが流れた瞬間、コーヒーカップを持つ手が止まった。

なんでこんなに動揺したんだろう。考えてみれば、私と追浜工場に直接的な関係はない。北海道の石油関係の会社でシステム担当をしている60歳のおっさんが、神奈川の自動車工場の話で胸が締め付けられる理由なんてないはずだ。

でも、あった。

同僚mikuの取材データが教えてくれたこと

若い女性ライターmikuが使用する明るいワークスペース。ノートパソコンの画面にはインタビューや取材データが整理されて表示され、ノートやスマートフォン、小さな花などが並ぶ、細部まで丁寧に表現された4Kイメージ写真。

webライターの副業で一緒に仕事をしているmikuから、この件の取材データが回ってきたのは2日後だった。彼女は若いから、数字や事実を淡々と整理するのが上手い。でも、その整理された情報を見ているうちに、私は別のことを考えていた。

追浜工場。1961年操業開始。従業員2400人。2027年度末で生産終了。

これって、結局は「人の数」なんだよな。

私の会社でも何度かシステム統合で人員整理があった。そのたびに思うんだが、数字で語られる「効率化」の向こう側には、必ず「明日からどうやって食っていくか」を考えている人がいる。

2400人の家族を考えたら、軽く5000人は超える。追浜という街で、日産に関わって生きている人はもっと多いだろう。

システム屋の目で見た日産の数字

システム担当者がパソコン画面に映し出された日産の財務データやグラフを真剣に分析しているオフィスシーン。デスク上には資料や電卓、コーヒーカップが並ぶ、細部まで緻密に表現された4Kイメージ写真。

2024年度の日産の決算を見て、正直ぞっとした。

売上高営業利益率0.6%なんて、システム運用で言えば「動いてるだけ」のレベルだ。利益を生んでいるとは到底言えない。

連結売上高12兆6,332億円に対して営業利益698億円。これ、売上の99.4%がコストで消えているということだ。当期純損失6,709億円なんて、もはやシステム障害レベル。

私たちの会社の基幹システムでも、稼働率が70%を切ったら「要改善」扱いになる。工場も同じだ。稼働率が低いということは、そこにある設備や人件費が有効活用されていないということ。経営判断としては理解できる。

でも理解できることと、納得できることは違う。

ホンダとの破談で見えた企業のプライド

2月にホンダとの経営統合が破談になった時、正直「やっぱりな」と思った。

北海道の田舎育ちの私には、大企業の「プライド」がよく分からない。雪で車が動かなくなった時、どこの会社のトラクターに引っ張ってもらおうが関係ない。助かればそれでいい。

でも日産は違った。ホンダから子会社化を提案された時点で「NO」だった。

mikuの取材メモにあったんだが、この破談の背景には日産社内の複雑な事情があったらしい。内田社長(当時)は統合に前向きだったが、副社長クラスの猛反対にあったという。

企業内政治ってやつか。システム部門でもよくある話だ。現場は統合の必要性を感じているのに、管理職が縄張り意識で反対する。結果、全体最適ができずに問題が先送りされる。

岩渕さんの言葉が刺さった理由

東京新聞の記事で読んだ、追浜の弁当販売店経営者・岩渕則彦さん(59)の言葉。

「うそだろ、と思わず声が出た」

この感覚、すごく分かる。

私も50代の時、会社の大規模なシステム統合で、自分の部署がなくなるという話を聞いた時、全く同じことを言った。「うそだろ」って。

現場で毎日汗をかいている人間からすると、経営陣の判断って突然降ってくる「天災」みたいなものなんだ。論理的には理解できても、感情がついていかない。

岩渕さんの「コメの値上がりでただでさえ経営が厳しい。本当に閉鎖となれば、影響はダブルパンチだ」という言葉も重い。

個人事業主って、大企業の社員と違って逃げ場がない。会社員なら転職という選択肢があるが、17年間地域密着でやってきた店を畳むのは、人生そのものを変えることだ。

地方で働く者として思うこと

地方の静かな朝、民家や商店が並ぶ通りと遠くに広がる山や畑。中年の男性がバス停や歩道でたたずみ、穏やかな風景を見つめている、繊細な表現の4K高画質イメージ写真。

私がこの問題に過剰反応するのは、たぶん地方で働いているからだ。

北海道の地方都市で、石油関係の仕事をしていると、「産業の盛衰」を肌で感じる。炭鉱が閉山した時の夕張の話とか、製紙工場が撤退した時の話とか、身近にたくさんある。

企業城下町って、その企業がなくなった瞬間に「普通の田舎」になってしまう。インフラは残るけど、活気は消える。若い人は出ていく。残された高齢者だけが、「昔はよかった」を語り続ける。

追浜はまだ首都圏だから、日産がなくなっても別の仕事はあるかもしれない。でも、64年間その地域の中心だった工場がなくなるインパクトは計り知れない。

システム屋が見る日産の構造問題

冷静に分析すると、日産の問題は「選択と集中」が遅すぎたことだ。

2019年の世界販売台数約500万台から、2025年予想の約300万台まで落ち込んでいる。この5年間で200万台のマーケットを失った。システムで言えば、ユーザー数が4割減ったということだ。

こんな状況で17の生産拠点を維持するのは不可能だ。早めに10拠点に絞って、残った拠点の競争力を高めるべきだった。

でも、それができなかった。なぜか。

たぶん、ゴーン逮捕後の混乱、ルノーとの関係悪化、コロナ禍、そして経営陣の求心力不足。すべてが重なって、意思決定が後手後手に回った。

システム統合プロジェクトでよく見る失敗パターンだ。

技術の日産は復活できるのか

明るく近代的な日産の研究開発ラボ。最前面には全固体電池や回路基板、新型モーターなど革新的な電気自動車部品が並び、奥ではエンジニアたちが新型EVや未来的な車体を検討している、細部まで丁寧に描かれた4Kイメージ写真。

それでも、全部が悪いわけじゃない。

全固体電池の実証工場稼働とか、新型リーフの開発とか、技術面では光るものがある。e-POWERだって、独自技術として評価は高い。

問題は、これらの技術がビジネスとして成功するまでの「時間」があるかどうかだ。

2025年4-6月期に2000億円の営業赤字予想。前年同期の黒字から一転してのこの数字は、相当ヤバい。キャッシュが続くうちに立て直せるか。

結局、人の話なんだよな

長々と書いてきたが、結局この問題は「人」の話なんだ。

追浜で働く2400人の従業員。その家族。工場と共に歩んできた地域の人たち。みんな、それぞれの人生がある。

経営効率とか競争力とか、そういう言葉で片付けられない重みがある。

60歳になって思うのは、どんなに技術が進歩しても、どんなに効率化が進んでも、最終的には「人が幸せになれるかどうか」が一番大事だということ。

日産には、単なる経営再建じゃなくて、関わる人たちが希望を持てる再建をしてほしい。

そして私たちも、企業城下町の現実を他人事として見るのではなく、自分の問題として考える必要があるんじゃないだろうか。

明日は我が身、かもしれないから。


※この記事は、同僚レポーターmikuの取材協力と各種公開情報を基に、一システム担当者の個人的見解として書いています。

やすのプロフ

mikuのプロフ

さよなら郵便ポスト──デンマークが描く“紙のない社会”の衝撃

~PostNordの決断と、世界最先端のデジタル行政~

私は桜田泰憲。60歳の新規IT企業のシステムエンジニアで、webライターとして5年ほど活動している。今回、デンマークの郵便制度廃止について書くことになったのは、正直なところ「本当にそんなことができるのか?」という疑問からだった。

石油関係の会社で現場担当として30年以上働いてきた私には、「制度を根本から変える」ことの難しさが身に染みている。それなのに、デンマークという国は2025年末までに全国の郵便ポストを撤去し、紙の郵便を完全に廃止するという。北海道の田舎で育った私からすれば、これは革命的というより「本当に大丈夫なのか?」と心配になる話だった。

この記事を読んでわかること

  • デンマークが郵便制度を廃止する具体的な理由と背景
  • Digital Postという電子通知システムの実際の仕組み
  • 郵便廃止がもたらすメリットと課題の両面
  • 日本のデジタル化にとっての教訓

なぜデンマークは郵便ポストを全て撤去するのか

2024年、デンマーク政府と国営郵便事業者PostNordが発表した内容を見て、私は最初「データの見間違いではないか」と思った。全国約1500か所の郵便ポストを全撤去するという話があまりにも現実離れしていたからだ。

しかし調べてみると、この決定には明確な根拠があった。PostNordが公表したデータによると、郵便利用量は2000年以降90%以上も減少している。24年間でここまで劇的な変化が起きるとは、システム開発の現場で技術革新を見てきた私でも予想していなかった。

私が北海道にいた頃、郵便局は地域の重要な拠点だった。年賀状や手紙のやりとりは日常的で、郵便ポストがなくなるなんて考えもしなかった。しかし、デンマーク国民の高いデジタルリテラシーと政府主導のインフラ整備が、この変化を可能にしている。

「デジタルポスト」制度の実際の仕組み

ここで重要なのは、デンマークが単に郵便を廃止したわけではなく、代替システムを完璧に構築したことだ。2012年に法制化され、2014年に義務化された「Digital Post」は、15歳以上の全住民に政府発行のデジタルID(MitID)を使った電子通知の受信を義務づけている。

システムエンジニアの目で見ると、これは理想的な統合プラットフォームだ。税務署、病院、学校、年金など全ての行政機関が同じシステムで通知を送信し、国民は専用アプリで即時確認、返信、納税まで完了できる。通知履歴は全て暗号化され、改ざんは不可能だ。

例えば、税通知をスマホで受け取り、数タップで納税を完了する。健康診断の結果も同様にデジタルで確認する。私たちが慣れ親しんだ「封筒を開けて、書類を読んで、銀行に行って支払う」という一連の作業が、全てスマホで完結するのだ。

これは単なる効率化ではない。社会のコミュニケーション方法そのものを変える革命だと感じる。

PostNordの決断が意味すること

PostNordは2025年末をもって書状配達事業を完全終了し、以下の改革を実施する。

項目内容
郵便ポストの撤去約1500か所を順次撤去(2024~2025年)
配達スタッフの再編約1500人削減(700人は宅配部門に転属)
ユニバーサルサービス義務(USO)撤廃し民間競争に開放

特に注目すべきは、ユニバーサルサービス義務の撤廃だ。これまで「全国民が等しく郵便サービスを受けられる」ことを保証していた制度をやめ、完全に民間競争に委ねるということだ。

私はこれまで「公共サービスは国が責任を持つべき」と考えてきた。しかし、デンマークの決断を見ていると、「公共サービスの定義そのものが変わってきている」ことを実感する。デジタルインフラを公共サービスとして提供し、物理的な配達は民間に任せる。この発想の転換は、日本でも参考になるはずだ。

郵便廃止で得られるメリットは本物か

この改革によるメリットを冷静に分析してみた。

まず機能的なメリットとして、配達人件費・燃料費・用紙費の大幅削減がある。行政手続きのスピードと透明性も向上し、セキュリティも強化される。フィッシング詐欺のような偽装も難しくなる。

環境面では、年間数千トンのCO2削減効果がある。紙資源の削減、印刷・封入作業の撤廃による効果は無視できない。

しかし私が最も興味深いと感じたのは、社会的・心理的なメリットだ。情報を確実に受け取れる安心感、「先進国に暮らしている」という誇り、DX人材へのモチベーション向上。これらは数値化しにくいが、社会全体の士気に大きく影響する。

ただし、これらのメリットは全ての人が享受できるわけではない。そこに大きな課題がある。

残された深刻な課題

正直に言うと、この制度には不安もある。デンマークでは高齢者の約30%がスマホを持っていない。地方ではインフラが未整備の地域もある。「情報漏洩」や「操作不安」を感じる人も多いだろう。

対策として代理人制度や紙通知の一時許可も導入されているが、完全な包摂とは言い切れない。私の母親のことを考えても、80歳を超えてからスマホで行政手続きをするのは現実的ではない。

この問題は技術的な解決だけでは限界がある。社会全体でのサポート体制や、デジタル教育の充実が不可欠だ。

他国との比較で見えてくること

欧州主要国の動向を比較してみると、デンマークの先進性がよく分かる。

国名郵便サービス動向備考
デンマーク書状配達完全終了へDigital Post制度法制化済
ドイツ配達頻度週2回に移行中8000人規模で人員削減
イギリス一部有料化・労組対立中公共サービス再編中
スウェーデン週1~2回配達に縮小市場原理導入段階
日本紙通知が主流のままマイナンバー統合途上

デンマークでは現在、約520万人の市民がDigital Postに登録し、約29万人が免除対象となっている。この高い登録率が、郵便制度廃止を可能にしている大きな要因だ。

日本への教訓──我々は何を学ぶべきか

デンマークの事例から、日本が学ぶべきことは多い。しかし、同じ方法をそのまま導入すれば良いというものではない。

政策的に必要な対応として、以下の4点が挙げられる。

  1. マイナンバーと行政通知の完全連携
  2. 高齢者向け紙通知の明文化
  3. 郵便サービスの競争開放と多様化
  4. 自治体間でのデジタル実装支援

特に重要なのは、急激な変化ではなく段階的な移行だ。デンマークのような思い切った決断も必要だが、日本の文化や社会構造を考慮した独自のアプローチが求められる。

私が石油関係の会社でシステム移行を何度も経験してきた中で学んだのは、「技術的に可能なことと、社会的に受け入れられることは別」だということだ。デンマークは両方を同時に達成した稀有な例だが、日本では時間をかけた丁寧な移行が現実的だろう。

郵便ポストが消えた国から見える未来

デンマークの郵便制度廃止は、単なる効率化ではない。これは社会契約の再設計であり、行政と市民の関係の進化を意味している。

私たちは今、歴史的な転換点にいる。紙の時代の終焉は、次の社会の始まりでもある。デンマークの先進事例から学び取れることは多いが、同時に日本独自の道筋を見つける必要がある。

60歳になった私から見ても、この変化は避けられない。問題は、いかに全ての人が取り残されずに済むかということだ。技術の進歩に人間が合わせるのではなく、人間のための技術として活用していく。それが私たちの課題だと思う。

この記事を読んで分かったことと考えるべきこと

  • デンマークの郵便廃止は数値的根拠に基づく合理的判断であること
  • デジタル化は単なる効率化ではなく社会構造の変革であること
  • 先進事例を学びつつも、各国の文化に適した独自の方法論が必要であること
  • 技術の恩恵を全ての人が受けられる仕組み作りが最重要課題であること​​​​​​​​​​​​​​​​

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