北海道のスーパーが避難所になった日 ~60歳エンジニアが見たクーリングシェルターのリアル

桜田泰憲、60歳です。羅臼町の漁師町で育って、今は札幌の石油会社でシステム回りを担当しています。webライターを始めたのは5年前、定年も見えてきて何か新しいことをと思ったのがきっかけでした。

7月の札幌出張で、イオン札幌桑園店に立ち寄ったときのことです。フードコートで70代くらいのおじいさんが新聞を広げて座っていました。何も注文せずに、ただ涼んでいる。店員さんも何も言わない。「あれ?」と思って近くの案内を見ると、小さく「クーリングシェルター」の文字が。

正直、その時まで詳しく知りませんでした。恥ずかしい話です。

スーパーが避難所?法改正で何が変わったのか

調べてみて驚きました。2023年5月に「気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律」が公布されて、2024年4月から施行されていたんです。これで、自治体と協定を結べば、スーパーやドラッグストアも正式な暑熱避難施設になれるようになった。

要するに、今まで「避難所」といえば公民館とか役所だったのが、コンビニやショッピングモールも避難所になったということです。

システム屋として30年やってきた私から見ると、これはすごい変化です。従来の「お役所主導の縦割り防災」から「民間も巻き込んだ横断的防災」への転換。プログラムで言うなら、モノリシック(一枚岩)なシステムからマイクロサービス(分散型)への移行みたいなものです。

北海道庁の発表を見ると、道内で73市町村がクーリングシェルターを設置済み。全179市町村のうち4割超です。制度が始まって1年ちょっとでこの普及率は、正直予想以上でした。

北海道でなぜこんなに暑いのか

私が子供の頃の羅臼は、真夏でも25度を超えることは稀でした。エアコンなんて家にありませんでしたし、必要もなかった。ところが今年7月22日、気象庁のデータを見ると道内22地点で35度超え。美幌で37.3度って、本州の真夏並みです。

北海道の家って、そもそも暑さ対策なんて考えて作られてないんです。断熱材はしっかりしてるけど、それは冬の寒さ対策。夏は窓を開けて風通しを良くするくらいが関の山。エアコンがない家もまだまだ多い。

だからスーパーなんです。

環境再生保全機構の資料によると、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)もクーリングシェルターの効果を認めています。「冷房完備」「アクセスしやすい」「心理的ハードルが低い」「長時間いても大丈夫」。この4条件を満たすのは、やっぱりスーパーが一番です。

役所に「涼みに来ました」って言うのは気が引けますけど、スーパーなら何か買うついでに涼めますからね。

実際のところ、どう運用されているのか

テレビ北海道の報道では、イオン北海道が道内102店舗をクーリングシェルターに提供しているとのこと。札幌市内だけで62店舗です。

札幌市のサイトを見ると、ショッピングセンターや薬局、それに地下街まで指定されています。でも、システム屋の目で見ると情報提供の仕方にかなり問題があります。

PDFファイルでの一覧表示がほとんど。しかも自治体ごとにフォーマットがバラバラ。リアルタイムでの混雑状況なんて分からない。これじゃあ本当に必要な時に使えるかどうか…。

私が実際に見たもの(個人的な観察です)

先日の札幌桑園店での話に戻ります。午後2時頃、フードコートにいた時間は約1時間。その間に見かけたのは:

👴 新聞を読んでいた高齢男性
(何も注文せずに45分ほど滞在)

🧒‍👩‍🍼 小さな子供連れのお母さん
(アイス1個買って30分ほど休憩)

👨‍💼 仕事の合間らしきサラリーマン
(10分ほど涼んでから出ていった)

店員さんに「クーリングシェルターの利用者って多いんですか?」と聞いてみました。「そうですね、暑い日は確かに増えますが、正直、買い物客なのかクーリングシェルター利用なのか区別がつかないことも多いです」とのこと。

制度はあるけれど、現場では結構曖昧に運用されているのが実情のようです。

技術屋から見た改善点

30年間システム開発をやってきた立場から言わせてもらうと、今のクーリングシェルターの情報提供は20年前のレベルです。

今すぐできる改善

  1. リアルタイム混雑情報 東京都のコロナ対策で使われた技術を応用すれば、WiFiアクセスログから大体の混雑度は把握できます。技術的には難しくない。
  2. 位置情報との連携 今いる場所から一番近いクーリングシェルターを探せるアプリ。GoogleマップのAPIを使えば、個人でも作れるレベルです。
  3. 気象データとの自動連 環境省の暑さ指数APIと連動して、危険レベルに達したら自動で施設情報をプッシュ通知。

正直なところ、これらの技術は既に実用化されているものばかり。問題は「やるかやらないか」だけです。

本格的な改善案

人流データの解析ならNTTドコモの「モバイル空間統計」、混雑予測なら日立の「Lumada」、地図情報ならゼンリンの「地図プラットフォーム」。技術的な選択肢はいくらでもあります。

ただ、コストと効果のバランスを考えると、まずは既存のオープンデータを活用した簡易システムから始めるのが現実的でしょう。

これは単なる暑さ対策じゃない

60年生きてきて思うのは、本当に価値のある制度って、最初は地味で目立たないものが多いということです。

クーリングシェルターも、表面的には「暑い時に涼む場所」ですが、本質はもっと深いところにあります。高齢者が安心して外出できる選択肢が増える。子育て世代の負担が減る。地域のコミュニティ拠点ができる。

私たちの世代が若い頃は、暑ければ木陰で我慢するか、家でじっとしているかでした。でも今の夏の暑さは、もはや「我慢」でどうにかなるレベルじゃない。社会全体で対応しないと、本当に命に関わる。

札幌で実際に制度を利用している人たちを見て、「ああ、これは必要な仕組みなんだな」と実感しました。完璧じゃないけれど、確実に機能している。

課題は山積みだが、方向性は正しい

イオンの取り組みを見ると、全国で約4,500カ所の施設を展開予定とのこと。数としては十分です。

問題は運用面です。制度の認知度、情報提供の方法、緊急時の対応ルール、施設側の負担軽減策…。webライターとして情報発信に携わってきた経験から言うと、特に「伝え方」の部分で改善の余地が大きい。

「クーリングシェルター」という名前自体、分かりにくいですよね。「暑さ避難所」とか「涼み処」とか、もっと分かりやすい呼び方はないものでしょうか。

技術的な解決策は既にあります。あとは「実行するかどうか」。そして「継続するかどうか」。

気候変動は一時的な現象じゃありません。これからもずっと続く問題です。だからこそ、今のうちに仕組みを整えて、技術を活用して、本当に役立つシステムにしていく必要がある。

60歳になって思うのは、「完璧を待っていては何も始まらない」ということです。今あるものを改善しながら、少しずつ良くしていく。それが一番現実的なアプローチです。


参考にした情報源

制度関連

北海道の状況

技術参考事例


桜田泰憲・60歳・石油会社システム担当兼webライター